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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)99号・平9年(行ウ)34号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 大橋毅

被告 東京都教育委員会

右代表者教育委員長 清水司

右指定代理人弁護士 松崎勝

右指定代理人 松堂光男

同 原田憲吾

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対し平成八年一一月一四日付けでした戒告処分を取り消す。

二  被告が原告に対し平成九年三月三一日付けでした免職処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、条件附採用期間中の都立高校教諭であった原告が戒告処分を受け、その後免職処分を受けたことにつき、いずれについても、処分理由に事実誤認があり、また、処分理由に対して処分が重きにすぎ裁量権を逸脱したもので違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

二  前提となる事実(証拠により認定した事実については証拠を掲げた。その余は、当事者間に争いがない。)

1  原告は、昭和三六年生まれで、平成八年四月に被告に採用され、東京都立新宿山吹高等学校(以下「新宿山吹高校」という。)教諭として着任したものであるが、平成八年四月一日から一年間は条件附採用期間とされていた。

2  文部省は、初任者研修実施の対象となる公立学校の新任教員のうち、各都道府県・指定都市から推薦された者に対し、船上における研修及び寄港地における産業・文化施設の視察を行う洋上研修を実施していた(乙八の一)。

3  原告は被告の推薦を受けて、文部省主催の客船「おりえんとびいなす丸」における平成八年七月二二日月曜日から同月三一日水曜日まで、福岡県門司港及び北海道釧路港等に寄港しながらほぼ全国を一周して研修を行う第一団の洋上研修(以下「本件洋上研修」という。)に参加した。

4  本件洋上研修への参加新任教員は四三一名で、また、洋上研修の際には、研修参加者の援助など洋上研修の運営に当たる運営部職員として、主催者の文部省職員や各都道府県及び指定都市教育委員会の指導主事らも乗船していた(甲三、四)。

洋上研修参加者は約二〇名ずつの班に分かれたうえ、運動会や討議内容の発表等の際には二班で一チームを構成して活動することになっており、原告は六班に所属していた(甲四、乙八の一)。

5  被告は、平成八年一一月一四日付けで、原告に対し、懲戒処分としての戒告処分を行ったが(以下「本件戒告処分」という。)、その処分理由は、原告が、「文部省主催のおりえんとびいなす丸における初任者教員洋上研修に参加した際、同研修に参加した班員をサル呼ばわりしたり、運動会のチーム名を決める班会議で、マスかきザルか、ロリコン変態がよい、それは俺の趣味だと発言した。また、エレベーター内で女性の額に頭突きをしたり、朝の集いで整列しているとき、右手人差し指で、前に並んでいた女性の背中を頸椎下部から腰椎に向かって約三〇センチメートルくらいなで、女性が何するんですかというと、性的に感じるかどうか調べたんだと言った。更に、二人の女性班員から酒臭いと言われ、そうかと言って二人の顔に息を吹きかけたり、研修場所の移動で廊下を歩いているとき、女性の左脇腹を右手親指と右手人差し指でつねる行為を二度行った。このことは、地方公務員法第三三条に違反する」ことによるものである旨が処分説明書に記載され、原告に交付された(甲二、乙二)。

6  被告は原告に対し、条件附採用期間の最終日である平成九年三月三一日をもって免職処分を行った(以下「本件免職処分」という。)。

三  争点

1  本件戒告処分の適法性

2  本件免職処分の適法性

四  争点に関する当事者の主張

1  原告

(一) 本件戒告処分及び本件免職処分は被告が理由とした事実の一部に誤認があり、また、右各処分が前提とする事実に対して免職処分を行うことは社会通念に著しく反する重い処分を科するものであって裁量権の範囲を逸脱した違法なものである。

また、教育公務員特例法一三条の二第三項によれば、公立の小学校等の教員で地方公務員法二二条一項の規定により正式任用になっている者が、引き続き同一都道府県内の公立の小学校等の教員に採用された場合は、その任用については条件附採用の規定を適用しないこととしている。これは、従前の正式採用にいたる条件附採用期間にすでにその職務遂行能力をみることができたのであるから、さらに不安定な条件を付する合理性がないことによる。原告は、東京都において高校教諭となるのは初めてであるから直接、教育公務員特例法一三条の二第三項の適用は受けないが、鹿児島県で平成元年から同六年三月三一日までの間に四回、延べ三年間にわたり臨時教員として勤務し、さらに平成六年四月一日から鹿児島県出水市立出水商業高校に正式採用され一年間教諭として勤務し、初任者研修を受けていたもので、本件洋上研修を受ける時点ですでに教員としての経験が延べ四年間あり、そのまま鹿児島県出水市立出水商業高校に勤務していればすでに正式採用されていたものであるから、原告に対する本件免職処分については、教育公務員特例法一三条の二第三項の趣旨に鑑み、任用権者に広範な裁量権を認めるべきではない。

(二) 本件免職処分の相当性を判断するについては、本件洋上研修後の原告の勤務実績等の事実も重視されるべきである。

(1)  原告は、本件洋上研修中の参加女性教員に対する非礼については、洋上研修中に反省して謝罪し、友人関係を継続している。また、研修終了後、新宿山吹高校の安井幸生校長(以下「安井校長」という。)に事情を報告し、同校長の指導により、真摯に反省文等を書いている。

(2)  新宿山吹高校における初任者研修中に老人ホームのボランティアに参加し、痴呆老人の話相手となったり食事介護に従事し、研修の予定時間数を終了した後も自発的に右ボランティア活動を継続した。

(3)  平成八年九月後半から一〇月前半まで約四週間にわたり、週一回、原告の行う授業につき、新宿山吹高校における原告の初任者指導担当教員である佐藤教諭及び校長らが立会の上、東京都教育庁指導部の指導主事二名の観察を受けたが、その際、指導主事は原告が初任者の授業としては水準以上であるとほめていた旨を校長から伝え聞いた。

2  被告

(一) 被告が本件戒告処分をした理由は次のとおりである。

(1)  原告は、本件洋上研修において次の各行為を行った。

<1> 原告は、本件洋上研修において平成八年七月二二日午後五時二〇分ころ、「おりえんとびいなす丸」船内(以下単に「船内」という。)メインラウンジにおいて、集合時刻になっても現れない二人の男性班員について、「部屋で寝ているんじゃないの。サルみたいな人だよ。」と周囲の班員に聞こえるように発言した(以下「本件<1>の行為」という。)。

<2> 同月二四日午後四時ころ、寄港地活動のバス車中において、運動会のチーム名を決めるため、意見を求められた際、「マスかきザルか、ロリコン変態がよい。それは俺の趣味だ。」と発言した(以下「本件<2>の行為」という。)。

<3> 同月二五日午後四時一五分ころ、船内エレベーターにおいて女性班員の額に頭突きをした(以下「本件<3>の行為」という。)。

<4> 同月二六日午前七時一〇分ころ、船内スポーツデッキにおいて、朝の集いに整列している際、前に並んでいた女性班員の背中を、右手人差し指で、頸椎下部から腰椎にかけ約三〇センチメートルくらいをなでた上、同女性班員から「何をするんですか。」と言われたのに対し、「性的に感じるかどうか調べたんだ。」と発言した(以下「本件<4>の行為」という。)。

<5> 同月同日午前八時四〇分ころ、船内廊下において、近くにいた二人の女性班員から「酒臭い。」と言われたことに対し、右二人の女性に対し、「そうか。」と言って息を吹きかけた(以下「本件<5>の行為」という。)。

<6> 同月同日午前一〇時三五分ころ及び同月同日午後三時五五分ころの二度にわたり、船内廊下において、同一の女性班員の左脇腹を、右手親指と同人差し指でつねった(以下「本件<6>の行為」という。)。

(2)  原告の右各行為は、地方公務員法三三条(信用失墜行為の禁止)に違反することは明らかであることから、被告は、原告に対し、地方公務員法二九条一項一号、二号に基づき本件戒告処分をしたものである。

(二) 地方公務員法二二条一項は、条件附採用期間中の職員について、その職務を良好な成績で遂行したときはじめて正式採用となること、すなわち、能力の実証がなされた場合にのみ正式採用となることを規定しているのである。原告は、条件附採用期間中である平成八年一一月一四日に本件戒告処分を受けており、その職務を良好な成績で遂行したとは到底言い得ないものであることは明らかであり、被告は、原告が文部省主催の洋上研修で本件<1>ないし<6>の行為を行っている事実、原告が本件戒告処分を受けている事実及び原告が所属していた新宿山吹高校校長においても、原告を教育公務員としては不適格であると判断している事実を総合考慮し、原告には教育公務員としての適格性に問題があり、原告を教育公務員として引き続き任用しておくことが適当でないと判断し、原告に対し、条件附採用期間の最終日である平成九年三月三一日をもって本件免職処分をしたものである。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲五、甲一〇、乙四、乙六、乙七、乙八の一、乙一〇、乙一二、乙一五の一、二、乙一六、証人安井幸生、同横山正及び原告本人)によれば、以下の各事実が認められる。

1  原告は、高校一種普通免許(社会、商業)及び中学校一種普通免許(社会)の教員免許を有しており、平成元年四月一日から一年間鹿児島県立指宿高校に期限付き講師として採用されて社会科を担当し、平成二年四月から一年間鹿児島県立岩川高校で、平成三年四月から同年九月まで鹿児島県立山川高校でそれぞれ期限付き教諭として採用され、平成五年九月下旬から平成六年三月末まで鹿児島県立沖永良部高校社会科の期限付き講師として勤務した。その後、原告は、平成六年四月から平成七年三月まで鹿児島県出水市立出水商業高校に正式採用され一年間教諭として勤務したが、平成八年一月から同年三月末まで東京都立第五商業高校に産休の補助教員として採用され、さらに、同年四月、被告に採用され、新宿山吹高校に定時制課程の商業科の教諭として着任した。

2  本件洋上研修は、初任者研修の一環として行われるものであり、寄港地活動の他、船内研修として講義、チーム別討議等の日程が組まれており、討議においては、参加予定の研修教員が、これまでの校内・校外の研修を踏まえながら、一学期の間のそれぞれの教育指導の経験の中で、悩んだこと、困ったこと、うまく解決できなかったことあるいは反省点などについて、他の研修教員と意見交換したりすることが予定されていた(乙八の一)。

3  平成八年五月、本件洋上研修の募集要項が被告から新宿山吹高校に届いたため、安井校長が原告に参加の意思の有無をたずねたところ、是非行きたいとの意向であったため、新宿山吹高校から原告を参加者として被告に推薦した。

平成八年の洋上研修につき、被告に対する東京都の区、市、都立の小中高校からの推薦者は一五五名あり、そのうちから九〇名を被告が文部省に推薦した。

4  同年六月中旬ころ、安井校長は原告に文部省作成の本件洋上研修の手引きを渡した。

また、被告は、本件洋上研修につき平成八年七月五日、事前説明会(ガイダンス)を行い、原告も参加したが、説明会においては、洋上研修参加者に対し、都の代表教員として参加するものであること、他の道府県からの参加者と参加することになるため役割は進んで引き受けるようにすること及び研修としてふさわしい態度をとるようにすること等につき指導が行われた。

5  本件洋上研修中に原告は次の各行為を行った(甲五、乙四)。

(1)  原告は、平成八年七月二二日(研修一日目)午後五時二〇分ころ、船内メインラウンジにおいて、集合時間になっても現れない二名の男性班員について「部屋で寝ているんじゃないの。サルみたいな人だよ。」と周囲の班員に聞こえるように発言した(原告本人二一三、二一四項)。

原告は、同月二三日(研修二日目)午後にも、運営都職員に対し、「うちの連中は猿みたいなものですから、何度言ってもわからないんです。」と発言した。

(2)  原告は、同月二四日(研修三日目)、遅れて洋上研修に参加した教員に対し、「酒持ってきたか。」と声をかけ、同教員が持っていない旨答えたところ、持ってないやつは乗せない、かえれ、と発言した。

同日、寄港地で移動中のバスに乗車する際、前日の研修中に、原告の班で、教師以外になりたい職業があったかという話題が出た際、原告も教師以外になりたいものがあった旨挙手して明らかにしていたいきさつがあったところ、洋上研修の運営部職員から教師以外になりたかったものは何かときかれ、「その時々でいろいろあるじゃないですか。たとえばAV男優(アダルトビデオの男優)とか。」と答えた。

また、同日、寄港地活動のバス車中で原告が点呼をとることになった際、班所属の教員一人一人の名前を呼ばず、「お前らに番号をつけるから返事しろ。」と述べて番号により点呼をとり、三回目の点呼のとき、「乗ってないやつは置いていくぞ。」と述べた。

(3)  原告は、同日午後四時ころ、寄港地活動のバス車中において、研修六日目に予定されている洋上運動会に、原告所属の六班と、五班がチームを組んで出場する際のチーム名を決めることになり、五班の班長からマイクを向けられた際、マスかきザルか、ロリコン変態がいい、それは俺の趣味だ、との発言をした(甲一〇、原告本人二一六、二一七項)。

チーム名はその後「ゴッツンと愉快な狐さんチーム」に決まったが、その際、原告は他の班員に対し「好きにせい。」と発言した。

(4)  原告は、同月二五日(研修四日目)午後四時一五分ころ、寄港地活動を終えて「おりえんとびいなす丸」に戻った際、船内エレベーター内において女性班員から「Aさん、オヤジだから」と言われたことに対し、発言した女性班員に原告の額を近づけて頭突きのまねをしかけた(原告本人七八項)。

(5)  原告は、同月二六日(研修五日目)午前七時一〇分ころ、船内スポーツデッキにおいて朝の集いに整列している際、前に並んでいた女性班員の背中を、右手人差し指で頸椎下部から腰椎にかけ約三〇センチメートルくらいを上から下へなぞった(原告本人二四九項)。これに対し同女性班員から「何するんですか。」と言われたところ、「いや、ちょと、背中感じるかなと思って。」、「性的に感じるかどうか調べんだ」との趣旨の発言をした(甲一〇)。

(6)  原告は、同日午前八時四〇分ころ、「おりえんとびいなす丸」の操舵室を見学に行く際、船内において近くにいた二人の女性班員から「酒臭い。」と言われたことに対し、「そうか。」と言って右二人の女性班員に原告の顔を近づけ、息を吹きかけた。

(7)  原告は、同日午前一〇時三五分ころ及び同日午後三時五五分ころの二度にわたり、船内廊下において、同一の女性班員に対し、その左脇腹を右手親指と同人差指で縦にはさんでつまんだ。これに対し、右女性班員は一度目も二度目もキャッと叫び、やめて下さいよねと言った(原告本人二五三項)。

(8)  原告は、同日午前一一時三〇分ころ、子どもを理解するというテーマでチーム討議を行った際、「僕は生徒理解なんかしない。」、「生徒達には俺を知れ、俺はAなんだ。」と言う旨の発言をした。

6  同月二六日(研修五日目)の活動終了後、原告と同じ班の女性班員から原告がセクハラ行為を行うとして本件洋上研修の運営部に相談があったため、運営部の女性の指導主事らが事情を聞くこととしたが、右女性班員からは原告が黙って顔を近づけ息を吹きかける、背中を指で擦り感じるかどうか試したんだなどと言う、エレベーターの中で頭突きをされた等の事実申告があり、原告と同じチームであれば洋上運動会は欠席したいとの話をした。

7  同月二七日(研修六日目)、文部省から被告に対し、本件洋上研修において原告の行動が問題となっている旨の連絡があり、被告から連絡を受けた新宿山吹高校の服部教頭が、同日午後六時半ころ、北海道旅行中の安井校長にその旨を連絡し、安井校長から文部省の担当企画官に電話で問い合わせたところ、同企画官から、本件洋上研修で原告が高圧的な発言をしたり、問題行動をとっており、洋上研修の参加者として問題があるので途中で下船させることもあり得る旨の話を聞いた(乙六、証人安井八項ないし一六項、二九項)。

同日午後六時ころ、被告の担当指導主事と新宿山吹高校の服部教頭が文部省に出向いて事情を聞き、原告の本件洋上研修での行動を記したメモを受け取り、メモに記載してある一七項目の事実関係について確認するよう要請された。その後、文部省からは、船内で原告を指導したところ一応反省しているようなので途中では下船させないことになったとの連絡があった(乙一五の一及び二)。

8  安井校長は新宿山吹高校の当時の教頭四名と連絡をとり、原告が下船した七月三一日に学校で原告からの報告を待っていたが、原告から連絡がなく、当日は会うことはできなかった。

安井校長は、同日中に原告の自宅に連絡をとり、八月一日に反省文を提出するよう指示し、八月一日に原告が作成して持参した書面について教頭が内容が不明確であるとして訂正補充を指示し、さらに同月二日に原告が訂正の上持参した書面についても再度訂正補充を指示し、同月五日には、安井校長及び教頭四名が新宿山吹高校において直接原告から前記メモに記載されていた一七項目の事実について聴き取りをした(乙一五の一、証人安井四八ないし五六項)。また、原告は、八月五日付けで反省文を提出した(乙一三)。

9  新宿山吹高校において、原告は定時制課程B型勤務となっており、同校における定時制課程B型勤務の教頭は横山正(以下「横山教頭」という。)であったが、原告は、初任者研修中に一回行うこととなっている研究授業について、通常、初任者指導の担当教諭に提出すべき授業での指導計画案を事前に提出せず、横山教頭が立ち会って観察中の研究授業において、生徒から黒板の誤字の指摘を受けたところ、指摘した生徒に対し、そんなことは指摘しなくてよいと述べた(証人横山九八ないし一〇四項)。

10  被告は、安井校長からの報告を受けて、平成八年九月五日午後四時二五分から同七時三〇分までの間、原告から事情聴取を行い、事実関係を確認の上、本件戒告処分をした(甲一五の一ないし三、乙四)。

11  安井校長は、初任者研修の通常の指導に加え、原告が本件洋上研修後に、一生懸命授業に取り組んでいることを被告に見せようという趣旨で、平成八年九月二〇日、同年一〇月一八日及び同月二五日に、被告の指導部の指導主事を新宿山吹高校に呼び、原告の行う授業の観察を求めた(乙一六)。

また、原告は、横山教頭のあっせんにより初任者研修のプログラムとしてボランティア活動も行うこととし、痴呆性高齢者のデイホームで痴呆高齢者の日常生活の補助活動を行った。さらに、教頭らは、原告の研修の一環として、人権尊重、男女平等、セクシャルハラスメントについて及び言葉づかいについてというテーマを定めて報告書の作成を指導した。

12  原告は、平成八年一一月一四日本件戒告処分を受けたが、その際、被告から口頭で、平成九年四月以降の原告の本採用はしない旨の通告を受けた(乙一六)。

13  その後、平成九年二月、安井校長は、原告の新採用後一〇か月後の教員としての適性につき、初任者研修の指導教員及び横山教頭の意見を聞いた上、平成九年二月一日時点において、原告が不適格であるとの評定を被告に提出した(証人安井九四項)。

二  以上認定した事実及び前記前提となる事実により、以下に検討する。

1  本件戒告処分について

(一) 前記認定の原告に対する懲戒処分の程度について判断するに、地方公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる懲戒処分を選択すべきかを決するについては公正でなければならないことはもちろんであるが、懲戒権者は懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定できるのであり、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって右の裁量は恣意にわたることができないことは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限りその裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

(二) これを本件についてみるに、原告は、前記一5(一)、(三)ないし(七)認定のとおり、文部省主催の初任者教員に対する本件洋上研修において、被告が本件戒告処分の理由とする本件<1>ないし<6>の各行為を行った事実が認められ、これら原告の行為が、いずれも全国から推薦を受けた初任者教員に対する洋上研修の場で行われており、行為の内容も研修の内容及び目的とはかけ離れた性質及び態様のものであり、特に同じく研修参加者である女性教員の身体を理由なく触り、性的な言葉を述べた行為により女性班員が研修のカリキュラムの一つである洋上運動会に参加したくないと述べるなど、本件洋上研修の円滑な実施にも混乱を生じさせたことなど諸般の事情を考慮すれば、原告の行為が地方公務員法三三条が規定する信用失墜行為に該当するとして被告が原告に対して行った本件戒告処分が、社会通念上妥当を欠くものとはいえず、被告が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え、これを濫用したものと判断することはできない。

(三) これに対し、原告は、本件<1>ないし<6>の行為は、むしろ、原告として本件洋上研修が意義あるものとなるよう、班員に緊張感を持ってもらおうとしたり、班員の活発な発言を促し、また、女性班員とのスキンシップを図り、さらには、班全体を学級に見立て、学級運営として班をまとめ上げてみようとした等の動機に出たものである旨主張するが、本件洋上研修が日常生活と離れた客船で他の新任教員と寝食をともにして行うものであることから、参加者が高揚した心情になることはあり得るものと認められるものの、本件洋上研修は、あくまでも新任教育公務員としての研修の場であるのであるから、行動には自ずから節度が求められることはいうまでもなく、原告の本件<1>ないし<6>の行為は、原告の主観的な動機にかかわらず、初任者研修に参加する新任教員の行為として著しく相当性を欠くものといわざるを得ない。

2  本件免職処分について

(一) 地方公務員法二二条一項(教育公務員については、教育公務員特例法一三条の二)は、臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除いて、全ての職員の採用について、いわゆる条件附採用制度をとることとしているが、条件附採用制度の趣旨及び目的は職員の採用に当たって行われる競争試験もしくは選考の方法がなお職務を遂行する能力を完全に実証するとはいい難いことにかんがみ、試験又は選考によりいったん採用された職員の中に不適格者があるときはその排除を容易にし、もって、職員の採用を能力の実証に基づいて行うとの成績主義の原則(地公法一五条参照)を貫徹しようとすることにあるものと解される。したがって、条件附採用期間中の職員は正式採用されるまでの選択過程にあるのであって、右職員に対しては正式採用の職員に対する身分保障規定の一つである職員の分限に関する規定の適用が排除されている(地公法二九条の二)。しかし、条件附採用期間中の職員といえども、すでに試験又は選考の過程を経て勤務し、現に給与の支給も受け正式採用になることの期待を有するものであるから、条件附採用制度の前記のような趣旨及び目的からすれば、条件附採用期間中の職員に対する分限処分については任命権者に正式採用職員の場合に比較して任命権者により広い裁量権が与えられているものと認められるが、それは純然たる自由裁量ではなく、その処分が合理性をもつものとして許容される限度を超えた不当なものであるときは裁量権の行使を誤った違法なものになるというべきである(最高裁判所昭和五三年六月二三日第三小法廷判決・判例タイムズ三六六号一六九頁及び国家公務員の場合に関する最高裁判所昭和四九年一二月一七日第三小法廷判決・裁判集民事一一三号六二九頁参照)。

東京都において条件附採用期間中の職員の分限に関する条例がいまだ制定されていないことは弁論の全趣旨から明らかであるが、かかる場合、同じく条件附採用期間中の国家公務員の分限について定めた人事院規則一一-四(職員の身分保障)九条に準じ、勤務実績の不良なこと、心身に故障があることその他の事実に基づいてその官職に引き続き任用しておくことが適当でないと認められる場合に限り許されるものと解するのが相当である。

(二) そこで前記認定の各事実に基づき、本件免職処分の適否について判断するに、本件洋上研修における原告の本件<1>ないし<6>の行為からすれば、原告は教員として参加している研修において著しく節度及び教員としての自覚に欠け、女性教員に対し放縦ともいえる行動をとっていたものであり、右各行為がいずれも本件洋上研修における短期間の行動であり、かつ、原告は教科の学習指導能力については劣っている点はなかったと認められること(証人安井二七八項)を考慮してもなお、原告については、学校という団体生活の中で規律と礼節を保ちつつ、人格形成の途上にある高等学校の男女生徒を対象として学習面から情操面までにわたって生徒を指導監督すべき教育公務員としての適性に欠けるものといわざるを得ず、被告が、原告の条件附採用期間中の行動から全体として勤務成績が良好でないと評価し、教師としての適格性を欠くと判断したのはやむを得ないところであり、右の判断に基づいてなした被告の本件免職処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。

(三) なお、本件戒告処分と本件免職処分との関係につき、地方公務員に対する戒告等の懲戒処分は、公務員関係における秩序を維持するという観点から、職員にその個々の義務違反に対する責任を問うものであるのに対し、条件附採用期間中の職員に対する免職処分は、職員の採用にあたり行われる競争試験又は選考の結果だけでは職務を遂行する能力を完全に実証するとはいい難いことから、いったん採用された職員の中に適格性を欠く者があるときは、これを排除し、もって職員の採用を能力の実証に基づいて行うという成績主義の原則を実現しようとする観点から、その官職に引き続き任用しておくことが適当でないと認められる職員に対しされるものであって、前記の二つの処分の性質は本質的に異なるものであるから、条件附採用期間中の職員に義務違反行為があった場合、処分権者としては、当該職員に対し、法二二条所定の免職処分以外の懲戒処分をするとともに、その勤務実績等の事情を考慮してその官職に引き続き任用しておくことが適当でないと認めたときは免職処分をすることもできるものというべきである(最高裁判所昭和六〇年五月二〇日第二小法廷判決・裁判集民事一四五号二一頁参照)。

また、原告は、原告が鹿児島県において教員として採用されていた実績からすれば、本件免職処分を行うについて被告は広範な裁量権を有しない旨主張するが、本件記録上、原告が過去に教員として正式採用されていた事実を認めることはできず、原告の主張を採用することはできない。

三  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢尾和子)

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